有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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組合せ

組合せ

定義《組合せ》

 $n,$ $r$ を $n \geqq r > 0$ なる整数とする. 異なる $n$ 個のものから $r$ 個のものを選んで $1$ 組にしたものを, $n$ 個から $r$ 個を取る組合せ (combination) と呼び, その方法の総数を ${}_n\mathrm C_r$ で表す. $n = 0$ または $r = 0$ のときは, ${}_n\mathrm C_r = 1$ と定める. ${}_n\mathrm C_r$ の形に表された数を二項係数 (binomial coefficient) と呼ぶ.

定理《二項係数の公式》

 $n \geqq r > 0$ なる整数 $n,$ $r$ に対して, \[ {}_n\mathrm C_r = \frac{{}_n\mathrm P_r}{r!} = \frac{n!}{r!(n-r)!}\] が成り立つ.

証明

 $n$ 個から $r$ 個を取る組合せにおいて, 取り出した $r$ 個に順序をつける方法は $r!$ 通りあり, それらを合算すると $n$ 個から $r$ 個を取る順列の総数 ${}_n\mathrm P_r$ になるから, \[ {}_n\mathrm C_r\times r! = {}_n\mathrm P_r\] が成り立つ. よって, 両辺を $r!$ で割ると, 求める等式が得られる.

問題《パスカルの法則》

 $0 \leqq r < n$ なる整数 $n,$ $r$ に対して, 次のことを示せ.
(1)
${}_{n+1}\mathrm C_{r+1} = {}_n\mathrm C_r+{}_n\mathrm C_{r+1}$ が成り立つ.
(2)
$\displaystyle\sum\limits_{k = r}^n{}_k\mathrm C_r = {}_{n+1}\mathrm C_{r+1}$ が成り立つ.
基本定理$2018/07/19$$2022/05/07$

解答例

(1)
二項係数の定義により, \[\begin{aligned} {}_n\mathrm C_r+{}_n\mathrm C_{r+1} &= \frac{n!}{r!(n-r)!}+\frac{n!}{(r+1)!\{ n-(r+1)\}!} \\ &= \frac{n!\{ (r+1)+(n-r)\}}{(r+1)!(n-r)!} \\ &= \frac{(n+1)!}{(r+1)!\{ (n+1)-(r+1)\}!} \\ &= {}_{n+1}\mathrm C_{r+1} \end{aligned}\] が成り立つ.
(2)
(1) により ${}_k\mathrm C_r = {}_{k+1}\mathrm C_{r+1}-{}_k\mathrm C_{r+1}$ $(r < k \leqq n)$ であるから, \[\begin{aligned} \sum_{k = r}^n{}_k\mathrm C_r &= {}_r\mathrm C_r+({}_{r+2}\mathrm C_{r+1}-{}_{r+1}\mathrm C_{r+1})\\ &\qquad +\cdots +({}_{n+1}\mathrm C_{r+1}-{}_n\mathrm C_{r+1}) \\ &= {}_r\mathrm C_r-{}_{r+1}\mathrm C_{r+1}+{}_{n+1}\mathrm C_{r+1} \\ &= 1-1+{}_{n+1}\mathrm C_{r+1} \\ &= {}_{n+1}\mathrm C_{r+1} \end{aligned}\] が成り立つ.

別解 1: 組合せを利用

(1)
特定の人物 A を含む $n+1$ 人から $r+1$ 人を選ぶ方法を考える.
(i)
A を選ぶ場合. A 以外の $n$ 人から $r$ 人を選ぶ ${}_n\mathrm C_r$ 通りある.
(ii)
A を選ばない場合. A 以外の $n$ 人から $r+1$ 人を選ぶ ${}_n\mathrm C_{r+1}$ 通りある.
(i), (ii) は同時に起こらないから, ${}_{n+1}\mathrm C_{r+1} = {}_n\mathrm C_r+{}_n\mathrm C_{r+1}$ が成り立つ.
(2)
$n+1$ 人 A${}_1,$ $\cdots,$ A${}_n,$ A${}_{n+1}$ から $r+1$ 人を選ぶ方法の総数は, ${}_{n+1}\mathrm C_{r+1}$ である. このうち, A${}_1,$ $\cdots,$ A${}_{j-1}$ $(1 \leqq j \leqq n-r+1)$ を選ばず, A${}_j$ を選ぶ方法の総数は, A${}_{j+1},$ $\cdots,$ A${}_{n+1}$ から $r$ 人を選ぶ方法の総数に等しく, ${}_{n+1-j}\mathrm C_r$ である. これを $j$ の値を変えながら加えると, \[ {}_{n+1}\mathrm C_{r+1} = \sum_{j = 1}^{n-r+1}{}_{n+1-j}\mathrm C_r = \sum_{k = r}^n{}_k\mathrm C_r\] が得られる.

別解 2: 二項定理 (数学 II) を利用

(1)
\[ (1+x)^{n+1} = (1+x)^n+x(1+x)^n\] において, 左辺の展開式で $r+1$ 次の項は ${}_{n+1}\mathrm C_{r+1}x^{r+1}$ であり, 右辺の展開式で $r+1$ 次の項は \[ {}_n\mathrm C_{r+1}x^{r+1}+x\cdot {}_n\mathrm C_rx^r = ({}_n\mathrm C_r+{}_n\mathrm C_{r+1})x^{r+1}\] だから, 係数を比較すると ${}_{n+1}\mathrm C_{r+1} = {}_n\mathrm C_r+{}_n\mathrm C_{r+1}$ が得られる.

別解 3: 数学的帰納法

(2)
(i)
${}_1\mathrm C_1 = {}_2\mathrm C_2 = 1$ から, $n = 1$ のとき等式が成り立つ.
(ii)
$n = m$ ($m$: 正の整数) のとき等式が成り立つとすると, \[\begin{aligned} \sum_{k = r}^{m+1}{}_k\mathrm C_r &= \sum_{k = r}^m{}_k\mathrm C_r+{}_{m+1}\mathrm C_r \\ &= {}_{m+1}\mathrm C_{r+1}+{}_{m+1}\mathrm C_r \\ &= {}_{m+2}\mathrm C_{r+1} \quad (\because (1)) \end{aligned}\] となるから, $n = m+1$ のとき等式が成り立つ.
(i), (ii) から, すべての正の整数 $n$ に対して求める等式が成り立つ.

参考

  • (1) の等式 ${}_{n+1}\mathrm C_{r+1} = {}_n\mathrm C_r+{}_n\mathrm C_{r+1}$ は「パスカルの法則」(Pascal's rule) と呼ばれ, 二項係数を下図のように並べると (パスカルの三角形), 各位置の数は左上の数と右上の数の和になることを表している.
  • (2) の等式については, 例えば $n = 3,$ $r = 1$ の場合の ${}_4\mathrm C_2 = {}_1\mathrm C_1+{}_2\mathrm C_1+{}_3\mathrm C_1$ の各項を破線で囲むと, 下図のようになる. このことから, 等式 $\displaystyle\sum\limits_{k = r}^n{}_k\mathrm C_r = {}_{n+1}\mathrm C_{r+1}$ はしばしば「ホッケー・スティック恒等式」(hockey stick identity) と呼ばれる.

問題《中央二項係数の評価》

 正の整数 $n$ に対して ${}_{2n}\mathrm C_n \leqq 2^{2n-1}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
標準定理$2021/10/25$$2021/10/25$

解答例

 $p_n = \dfrac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}}$ $(n \geqq 1)$ とおく. $p_n$ が最大値 $\dfrac{1}{2}$ をとることを示せばよい. \[\begin{aligned} \frac{p_{n+1}}{p_n} &= \frac{{}_{2n+2}\mathrm C_{n+1}}{2^{2n+2}}\cdot\frac{2^{2n}}{{}_{2n}\mathrm C_n} = \frac{{}_{2n+2}\mathrm C_{n+1}}{{}_{2n}\mathrm C_n}\cdot\frac{2^{2n}}{2^{2n+2}} \\ &= \frac{(2n+2)!}{(n+1)!(n+1)!}\cdot\frac{n!n!}{(2n)!}\cdot\frac{1}{4} = \frac{(2n+2)(2n+1)}{(n+1)(n+1)}\cdot\frac{1}{4} \\ &= \frac{2n+1}{2n+2} < 1 \end{aligned}\] であるから, $p_n > p_{n+1}$ が成り立つ. よって, $p_n$ は $n = 1$ のとき最大値 $\dfrac{{}_{2}\mathrm C_1}{2^2} = \dfrac{1}{2}$ をとる. ゆえに, ${}_{2n}\mathrm C_n \leqq 2^{2n-1}$ が成り立ち, 等号成立は $n = 1$ のときに限る.

参考

 ${}_{2n}\mathrm C_n$ の形の二項係数を「中央二項係数」(central binomial coefficient) と呼ぶ. 「中央二項係数」は, 数学のさまざまな問題で現れる.

問題《公平にものを分配する方法の総数》

 異なる $nr$ 個のものを $n$ 人に $r$ 個ずつ配る方法の総数を求めよ.
基本素朴$2021/10/23$$2021/10/23$

解答例

 求める場合の数は, \[\begin{aligned} &{}_{nr}\mathrm C_r\cdot {}_{nr-r}\mathrm C_r\cdot\cdots\cdot{}_{r}\mathrm C_r \\ &= \frac{(nr)!}{r!(nr-r)!}\cdot\frac{(nr-r)!}{r!(nr-2r)!}\cdot\cdots\cdot\frac{r!}{r!0!} \\ &= \frac{(nr)!}{(r!)^n} \end{aligned}\] である.

問題《多角形の対角線に関する場合の数》

 $n$ を $3$ 以上の整数とする. 凸 $n$ 角形において, 次の数を求めよ. ただし, どの $3$ 本の対角線も $1$ 点で交わらないとする.
(1)
対角線の本数.
(2)
対角線の交点 (頂点を除く) の個数.
(3)
対角線がそれらの交点により切り取られてできる線分の本数.
標準素朴$2022/12/28$$2023/01/07$

解答例

(1)
$n$ 個の頂点から $2$ 個を選ぶと, 対角線または辺が決まる. その場合の数は ${}_n\mathrm C_2$ であり, 辺は $n$ 本あるから, 対角線の本数は
${}_n\mathrm C_2\!-\!n = \dfrac{n(n\!-\!1)}{2}\!-\!n = \dfrac{n\{ (n\!-\!1)\!-\!2\}}{2} = \dfrac{n(n\!-\!3)}{2}$ (本)
である.
(2)
$n$ 個の頂点から $4$ 個を選ぶと, 四角形が決まり, 対角線の交点 (頂点を除く) が決まる. よって, その個数は
${}_n\mathrm C_4 = \dfrac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{4}$ (個)
である.
(3)
$1$ 本の対角線は, 他の対角線と
$\dfrac{n(n\!-\!1)(n\!-\!2)(n\!-\!3)}{4}\div\dfrac{n(n\!-\!3)}{2} = \dfrac{(n\!-\!1)(n\!-\!2)}{2}$ (個)
の点で交わり, それらの交点によって
$\dfrac{(n-1)(n-2)}{2}+1 = \dfrac{n^2-3n+4}{2}$ (本)
の線分に分けられる. よって, 求める本数は,
$\dfrac{n(n^2-3n+4)}{2}$ 本
である.

参考

  • 凸 $n$ 角形において, どの $3$ 本の対角線も $1$ 点で交わらないとき, 対角線により $n$ 角形が分割されてできる領域の個数は,「モーザの円の分割問題」(こちらを参照) の解から点の個数を引いた数 \[\begin{aligned} &\frac{1}{24}(n^4-6n^3+23n^2-18n+24)-n \\ &= \frac{1}{24}(n^4-6n^3+23n^2-42n+24) \end{aligned}\] である.
  • 正の整数 $m$ に対して, 正の整数全体を定義域とする関数 $\delta _m(n)$ を \[\delta _m(n) = \begin{cases} 1 & (n \equiv 0 \pmod m), \\ 0 & (n \not\equiv 0 \pmod m) \end{cases}\] で定める. このとき, 正 $n$ 角形の対角線の交点の総数は \[\begin{aligned} &{}_n\mathrm C_4+\frac{-5n^3+45n^2-70n+24}{24}\cdot\delta _2(n) \\ &-\frac{3n}{2}\cdot\delta _4(n)+\frac{-45n^2+262n}{6}\cdot\delta _6(n)+42n\cdot\delta _{12}(n) \\ &+60n\cdot\delta _{18}(n)+35n\cdot\delta _{24}(n)-38n\cdot\delta _{30}(n) \\ &-82n\cdot\delta _{42}(n)-330n\cdot\delta _{60}(n)-144n\cdot\delta _{84}(n) \\ &-96n\cdot\delta _{90}(n)-144n\cdot\delta _{120}(n)-96n\cdot\delta _{210}(n) \end{aligned}\] であることが知られている (B. Poonen and M. Rubinstein, "The number of intersection points made by the diagonals of a regular polygon," SIAM J. Disc. Math., 11 (1998), no. 1, 135–156).

問題《正多角形の頂点を結ぶ三角形の個数》

 $n$ を $3$ 以上の整数とする. 正 $n$ 角形 $\mathrm P_1\mathrm P_2\cdots\mathrm P_n$ の頂点を結ぶ次のような三角形の個数をそれぞれ求めよ.
(1)
任意の三角形.
(2)
二等辺三角形.
(3)
鋭角三角形.
標準素朴$2018/09/13$$2018/09/17$

解答例

(1)
正 $n$ 角形の $n$ 個の頂点のうち $3$ 点を選べば三角形ができるから, 求める個数は \[ {}_n\mathrm C_3 = \frac{n(n-1)(n-2)}{6}\] である.
(2)
(I)
$n = 2m$ ($m$: $2$ 以上の整数) のとき.
(i)
$n$ が偶数で $3$ の倍数でないとき. 正三角形は存在せず, $\mathrm P_1$ を頂点とする二等辺三角形は $m-1$ 個あるから, 二等辺三角形の個数は \[ n(m-1) = \frac{n(n-2)}{2}\] である.
(ii)
$n$ が $6$ の倍数であるとき. (i) の二等辺三角形の中に $3\cdot\dfrac{n}{3}$ 個の正三角形が含まれているから, 二等辺三角形の個数は, 余分に数えられている個数 $2\cdot\dfrac{n}{3}$ を引いた \[ \frac{n(n-2)}{2}-2\cdot\frac{n}{3} = \frac{n(3n-10)}{6}\] である.
(II)
$n = 2m+1$ ($m$: 正の整数) のとき.
(i)
$n$ が奇数で $3$ の倍数でないとき. 正三角形は存在せず, $\mathrm P_1$ を頂点とする二等辺三角形は $m$ 個あるから, 二等辺三角形の個数は \[ nm = \frac{n(n-1)}{2}\] である.
(ii)
$n$ が奇数で $3$ の倍数であるとき. (i) の二等辺三角形の中に $3\cdot\dfrac{n}{3}$ 個の正三角形が含まれているから, 二等辺三角形の個数は, 余分に数えられている個数 $2\cdot\dfrac{n}{3}$ を引いた \[ \frac{n(n-1)}{2}-2\cdot\frac{n}{3} = \frac{n(3n-7)}{6}\] である.
(3)
$n$ の偶奇で場合分けして, 直角三角形, 鈍角三角形の個数を求め, それから鋭角三角形の個数を導き出す.
(i)
$n = 2m$ ($m$: $2$ 以上の整数) のとき. $\triangle\mathrm P_1\mathrm P_k\mathrm P_l$ $(2 \leqq k < l \leqq n)$ において $\angle\mathrm P_1 = 90^\circ$ であるためには \[ l = k+m, \quad 2 \leqq k < l \leqq n\] つまり \[ 2 \leqq k \leqq m, \quad l = k+m \quad [1]\] であることが必要十分である. $[1]$ を満たす整数 $k,$ $l$ の個数は $m-1$ であるから, 直角三角形の個数は \[ n(m-1) = \frac{n(n-2)}{2}\] である.
また, $\triangle\mathrm P_1\mathrm P_k\mathrm P_l$ $(2 \leqq k < l \leqq n)$ において $\angle\mathrm P_1$ が鈍角であるためには, \[ l-k > \frac{n}{2}, \quad 2 \leqq k < l \leqq n \quad \cdots [2]\] の成り立つことが必要十分である. \[ [2] \iff 2 \leqq k < l-m \leqq m\] であり, これを満たす整数 $k,$ $l$ つまり $k,$ $l-m$ の個数は \[ {}_{m-1}\mathrm C_2 = \frac{(m-1)(m-2)}{2}\] であるから, 鈍角三角形の個数は \[\begin{aligned} n\cdot\frac{(m-1)(m-2)}{2} = \frac{n(n-2)(n-4)}{8} \end{aligned}\] である.
ゆえに, 鋭角三角形の個数は \[\begin{aligned} &\frac{n(n\!-\!1)(n\!-\!2)}{6}\!-\!\frac{n(n\!-\!2)}{2}\!-\!\frac{n(n\!-\!2)(n\!-\!4)}{8} \\ &= \frac{n(n-2)(n-4)}{24} \end{aligned}\] である.
(ii)
$n = 2m+1$ ($m$: 正の整数) のとき. 直角三角形の個数は $0$ である. また, (i) と同様に, $\triangle\mathrm P_1\mathrm P_k\mathrm P_l$ $(2 \leqq k < l \leqq n)$ において $\angle\mathrm P_1$ が鈍角であるためには $[2]$ つまり \[ 2 \leqq k < l-m \leqq m+1\] の成り立つことが必要十分であり, これを満たす整数 $k,$ $l$ つまり $k,$ $l-m$ の個数は \[ {}_m\mathrm C_2 = \frac{m(m-1)}{2}\] であるから, 鈍角三角形の個数は \[\begin{aligned} n\cdot\frac{m(m-1)}{2} = \frac{n(n-1)(n-3)}{8} \end{aligned}\] である. ゆえに, 鋭角三角形の個数は \[\begin{aligned} &\frac{n(n-1)(n-2)}{6}-\frac{n(n-1)(n-3)}{8} \\ &= \frac{(n+1)n(n-1)}{24} \end{aligned}\] である.

カタラン数

問題《カタラン数の公式》

(1)
$xy$ 平面の原点を出発して, $x$ 軸方向に $1$ だけ進む, $y$ 軸方向に $1$ だけ進むのいずれかを繰り返して, 点 $(n,n)$ に至る経路において, $y \leqq x$ の部分のみを通るような場合の数 $C_n$ を求めたい. ここで, $y > x$ の部分を通るような経路は, 初めて直線 $y = x+1$ と点を共有するまでの部分を直線 $y = x+1$ に関して折り返すことで, 点 $(-1,1)$ から点 $(n,n)$ に至る経路に対応づけることができる.
このことを使って, \[ C_n = \frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{n+1}\] を示せ.
(2)
数直線上の動点 $\mathrm P$ は, 原点 $\mathrm O$ を出発して, コインを投げて表が出る度に正の方向に $1$ だけ移動し, 裏が出る度に負の方向に $1$ だけ移動する. 横軸をコインを投げた回数 $t$ とした $\mathrm P$ の座標 $x$ の折れ線グラフを考えることによって, $n \geqq 2$ のとき, $2n$ 回コインを投げた時点で $\mathrm P$ が $\mathrm O$ に初めて戻る場合の数は $\dfrac{2\cdot{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n}$ であることを示せ.
(参考: $2008$ 九州大)
実戦定理$2018/03/17$$2023/02/02$

解答例

(1)
点 $(n,n)$ への移動は, $x$ 軸方向に $1$ だけ進むことを表す矢印 $\to$ と $y$ 軸方向に $1$ だけ進むことを表す矢印 $\uparrow$ の順列で表される. よって, $y > x$ の部分を通っても通らなくてもよいとしたときの経路の総数は ${}_{2n}\mathrm C_n$ で, $y > x$ の部分を通るような経路の総数は ${}_{2n}\mathrm C_{n+1}$ であるから, \[\begin{aligned} C_n &= {}_{2n}\mathrm C_n-{}_{2n}\mathrm C_{n+1} \\ &= \frac{(2n)!}{n!n!}-\frac{(2n)!}{(n+1)!(n-1)!} \\ &= \frac{(2n)!}{n!n!(n+1)}(n+1-n) \\ &= \frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{n+1} \end{aligned}\] である.
(2)
$1$ 回目に表が出て $t = 2n$ のときに初めて $x = 0$ となるとき, 動点 $\mathrm P$ の座標 $x$ の折れ線グラフは, $(0,0),$ $(1,1)$ を結ぶ線分, $(2n-1,1),$ $(2n,0)$ を結ぶ線分と, $2n-2$ 本の直線 $x = t-2k$ $(0 \leqq k \leqq n-2),$ $x = -t+2l$ $(2 \leqq l \leqq n)$ が走る碁盤目の $x \geqq 1$ の部分からなる.
その総数は (1) の結果により \[ C_{n-1} = \frac{{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n}\] であるから, 対称性により, 求める場合の数は \[ 2C_{n-1} = \frac{2\cdot{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n}\] である.

参考

  • (1) の場合の数は「カタラン数」(Catalan number) と呼ばれる.
  • (2) の動点 $\mathrm P$ のように, 次に移動する位置が確率的に無作為に決まる運動を「ランダム・ウォーク」(random walk) と呼ぶ. コインを $2n$ 回投げ終えるまでに $\mathrm P$ が原点に戻る確率については, こちらを参照されたい.

問題《カタラン数のなす数列の漸化式》

 $xy$ 平面の原点を出発して, $x$ 軸方向に $1$ だけ進む, $y$ 軸方向に $1$ だけ進むのいずれかを繰り返して, 点 $(n,n)$ に至る経路において, $y > x$ の部分を通らないような場合の数を $C_n$ とおく (こちらを参照). また, $C_0 = 1$ と定める. ゴール前で最後に直線 $y = x$ を通過する点に着目することで, \[ C_{n+1} = \sum_{k = 0}^nC_kC_{n-k}\] が成り立つことを示せ.
標準定理$2022/02/17$$2022/02/17$

解答例

 $y > x$ の部分を通らないという条件のもとで, 原点から点 $(n+1,n+1)$ に至る経路において, ゴール前で最後に直線 $y = x$ を通過する点が $(k,k)$ $(0 \leqq k \leqq n)$ であるような経路は, 必ず $3$ 点 $(k,k),$ $(k+1,k),$ $(n+1,n)$ を経由する. 原点から点 $(k,k)$ に至る経路は $C_k$ 通り, 点 $(k,k)$ から点 $(k+1,k)$ に至る経路は $1$ 通り, 点 $(k+1,k)$ から点 $(n+1,n)$ に至る経路は $C_{n-k}$ 通り, 点 $(n+1,n)$ から点 $(n+1,n+1)$ に至る経路は $1$ 通りあるから, その場合の数は \[ C_k\cdot 1\cdot C_{n-k}\cdot 1 = C_kC_{n-k}\] である. よって, \[ C_{n+1} = \sum_{k = 0}^nC_kC_{n-k}\] が成り立つ.

問題《素数であるカタラン数》

 各正の整数 $n$ に対して \[ C_n = \frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{n+1}\] で定まる整数 $C_n$ を「カタラン数」と呼ぶ (こちらを参照).
(1)
\[ C_{n+1} = \dfrac{2(2n+1)}{n+2}C_n \quad \cdots [1]\] が成り立つことを示せ.
(2)
$n \geqq 4$ のとき, \[ C_n > n+2 \quad \cdots [2]\] が成り立つことを示せ.
(3)
素数である「カタラン数」をすべて求めよ.
(参考: $2021$ 東京工業大)
実戦定理$2022/02/11$$2022/02/14$

解答例

(1)
二項係数の定義により, \[\begin{aligned} C_{n+1} &= \frac{{}_{2n+2}\mathrm C_{n+1}}{n+2} \\ &= \frac{(2n+2)!}{(n+2)\cdot (n+1)!(n+1)!} \\ &= \frac{(2n+2)(2n+1)}{(n+2)(n+1)}\cdot\frac{(2n)!}{(n+1)\cdot n!n!} \\ &= \frac{2(2n+1)}{n+2}C_n \quad \cdots [1] \end{aligned}\] が成り立つ.
(2)
(i)
$n = 4$ のとき. \[ C_4 = \frac{{}_8\mathrm C_4}{5} = 14 > 6 = 4+2\] であるから, $[2]$ が成り立つ.
(ii)
$n = k$ $(k \geqq 4)$ のとき $[2]$ が成り立つとする. このとき, \[\begin{aligned} C_{k+1} &= \frac{2(2k+1)}{k+2}C_k \quad (\because [1]) \\ &> \frac{2(2k+1)}{k+2}(k+2) = 2(2k+1) \\ &> (k+1)+2 \quad (\because k \geqq 4 \Longrightarrow 3k > 1) \end{aligned}\] となり, $n = k+1$ のとき $[2]$ が成り立つ.
(i), (ii) から, $n \geqq 4$ のとき $[2]$ が成り立つ.
(3)
  • $C_1 = 1$ は素数でない.
  • $C_2 = 2,$ $C_3 = 5$ は素数である.
  • $n \geqq 4$ のとき. $[1]$ において $C_{n+1}$ は整数であるから, $2(2n+1)C_n$ は $n+2$ で割り切れる. $n \geqq 4$ により $2$ は $n+2$ で割り切れない. \[ 2n+1 = 2(n+2)-3\] であり, $n \geqq 4$ により $3$ は $n+2$ で割り切れないから, $2n+1$ は $n+2$ で割り切れない. よって, $C_n$ は $n+2$ で割り切れる. さらに, $[2]$ により, $C_n$ を $n+2$ で割った商は $1$ より大きい. したがって, $C_n$ は合成数である.
以上から, 素数である「カタラン数」は \[C_2 = 2, \quad C_3 = 5\] に限る.

問題《奇数であるカタラン数》

 整数 $C_0,$ $C_1,$ $\cdots,$ $C_n,$ $\cdots$ を順次 \[ C_0 = 1, \quad C_{n+1} = \sum_{k = 0}^nC_kC_{n-k}\] で定める (こちらを参照). 以下, $n$ を正の整数とし, $C_n$ が奇数であるとする. $n$ を $2$ で割った商を $q,$ 余りを $r$ とおく.
(1)
$r = 1$ であり, $C_q$ も奇数であることを示せ.
(2)
$n$ はある正の整数 $d$ を用いて $n = 2^d-1$ と表されることを示せ.
実戦定理$2022/02/15$$2022/02/16$

解答例

(1)
\[ C_n = \begin{cases} 2(C_0C_{2q-1}+\cdots +C_{q-1}C_q)& (r = 0), \\ 2(C_0C_{2q}+\cdots +C_{q-1}C_{q+1})+C_q{}^2 & (r = 1) \\ \end{cases}\] であるから, $C_n$ が奇数であるとき, $r = 1$ であり, $C_q{}^2$ は奇数, したがって $C_q$ は奇数である.
(2)
$n$ を二進法で \[ n = a_{d-1}\cdot 2^{d-1}+\cdots +a_1\cdot 2+a_0 \quad (a_k = 0,1) \] と表す. $C_n$ が奇数であるという仮定と (1) の結果により, $a_0 = 1$ が得られる. また, $n$ を $2$ で割った商 \[ q = a_{d-1}\cdot 2^{d-2}+\cdots +a_1\] についても, $C_q$ が奇数であることから, 同様に $a_1 = 1$ が得られる. この操作を続けると, \[ a_0 = a_1 = \cdots = a_{d-1} = 1\] となる (ちなみに, $C_0 = 1$ が奇数であることは自明である). ゆえに, $n$ は \[ n = 2^{d-1}+\cdots +2+1 = 2^d-1\] と表される.

参考

 「カタラン数」$C_0,$ $C_1,$ $\cdots,$ $C_n,$ $\cdots$ は \[ C_0 = 1, \quad C_{n+1} = \sum_{k = 0}^nC_kC_{n-k}\] で定まる. 正の整数 $d$ を用いて $2^d-1$ の形に表される正の整数は「メルセンヌ数」(Mersenne number) と呼ばれる. 本問で示したのは, 奇数である「カタラン数」は「メルセンヌ数」番目の「カタラン数」に限るということである.
問題一覧 (場合の数)場合の数の基本 順列・円順列
組合せ 組分け