群
群
定義《群》
- (1)
- 集合 $G$ に対して, $G\times G$ から $G$ への写像を $G$ 上の二項演算 (binary operation) と呼ぶ.
- (2)
- 空でない集合 $G$ と $G$ 上の二項演算
\[\mu: G\times G\to G;(a,b)\mapsto ab\]
が次を満たすとき, $G$ は二項演算 $\mu$ に関して群 (group) をなすといい, 対 $(G,\mu )$ を群と呼ぶ.
- (G1)
- 結合法則 (associative law): $a,$ $b,$ $c \in G$ ならば, $(ab)c = a(bc)$ が成り立つ.
- (G2)
- 単位元の存在: ある $e \in G$ について, すべての $a \in G$ に対して $ea = ae = a$ が成り立つ.
- (G3)
- 逆元の存在: $a \in G$ ならば, ある $a' \in G$ について $aa' = a'a = e$ が成り立つ.
- (3)
- 群 $G$ がさらに次の条件を満たすとき, $G$ を可換群 (commutative group) またはアーベル群 (abelian group) と呼ぶ.
- (G4)
- 交換法則 (commutative law): $a,$ $b \in G$ ならば, $ab = ba$ が成り立つ ($a,$ $b$ は可換であるという).
- (4)
- 二項演算が $a+b$ のように加法記号を用いて書かれる可換群を加法群 (additive group) と呼び, 二項演算が $a\times b,$ $a\cdot b,$ $ab$ のように乗法的に書かれる群を乗法群 (multiplicative group) と呼ぶ.
例《群》
- (0)
- $1$ 元からなる集合 $\{ e\}$ は $ee = e$ という二項演算に関して群をなす. これを単位群 (trivial group) と呼ぶ.
- (1)
- $i$ を虚数単位とすると, $1$ の $4$ 乗根全体の集合 $\{ \pm 1,\ \pm i\}$ は複素数の乗法に関して群をなす.
- (2)
- 整数全体の集合 $\mathbb Z$ は通常の加法に関して群をなす.
- (3)
- 集合 $X$ の全単射全体の集合は写像の合成に関して群をなす. これを $X$ の置換群 (permutation group) と呼ぶ. 特に, $n$ 個の元からなる集合 $X$ の置換群を $n$ 次対称群 (symmetric group of degree $n$) と呼び, $\mathfrak S_n$ で表す.
命題《一般結合法則》
$n$ を $3$ 以上の整数とする.
群 $G$ の $n$ 個の元 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n$ に対して, $a_1\cdots a_n$ を
\[ (a_1\cdots a_{k-1})a_k = a_1\cdots a_k \quad (3 \leqq k \leqq n)\]
により定める.
このとき,
\[ (a_1\cdots a_r)(a_{r+1}\cdots a_n) = a_1\cdots a_n \quad (1 \leqq r \leqq n-1)\]
が成り立つ.
証明
$n$ に関する数学的帰納法で示す.
- (i)
- $n = 3$ のとき. 結合法則と $a_1a_2a_3$ の定義により, \[ a_1(a_2a_3) = (a_1a_2)a_3 = a_1a_2a_3\] が成り立つ.
- (ii)
- $n$ を $4$ 以上の整数とし, \[\begin{aligned} (a_1\cdots a_r)(a_{r+1}\cdots a_{n-1}) = a_1\cdots a_{n-1}\ (1 \leqq r \leqq n-2) \\ \cdots [1] \end{aligned}\] が成り立つとする. このとき, $1 \leqq r \leqq n-2$ なる整数 $r$ に対して, \[\begin{aligned} &(a_1\cdots a_r)(a_{r+1}\cdots a_n) \\ &= (a_1\cdots a_r)((a_{r+1}\cdots a_{n-1})a_n) \\ &= ((a_1\cdots a_r)(a_{r+1}\cdots a_{n-1}))a_n \quad (\because\text{(G1)} ) \\ &= (a_1\cdots a_{n-1})a_n \quad (\because [1]) \\ &= a_1\cdots a_n \end{aligned}\] が成り立つ. $a_1\cdots a_n$ の定義により, これは $r = n-1$ のときも成り立つ.
命題《単位元, 逆元の一意性》
$G$ を群とする.
(G2) において, $e \in G$ はただ $1$ つに定まる.
(G3) において, 各 $a \in G$ に対して, $a'$ はただ $1$ つに定まる.
(G2) において, $e \in G$ はただ $1$ つに定まる.
(G3) において, 各 $a \in G$ に対して, $a'$ はただ $1$ つに定まる.
証明
$e,$ $e' \in G$ がすべての $a \in G$ に対して $ea = ae = a,$ $e'a = ae' = a$ を満たすとき,
\[ e = ee' = e'\]
となる.
また, $a,$ $a',$ $a'' \in G$ が $aa' = a'a = e,$ $aa'' = a''a = e$ を満たすとき,
\[ a' = a'e = a'(aa'') = (a'a)a'' = ea'' = a''\]
となる.
定義《群の単位元・逆元》
$G$ を群とする.
- (1)
- (G2) を満たす $e$ を $G$ の単位元 (unity), (G3) を満たす $a'$ を $a$ の逆元 (inverse) と呼ぶ.
- (2)
- 加法群 $G$ において, 単位元を $0$ で, $a \in G$ の逆元を $-a$ です. 乗法群 $G$ において, 単位元を $1$ で, $a \in G$ の逆元を $a^{-1}$ で表す.
元の位数
以下の一般論では, 群を乗法群として考え, その単位元を $e$ で表す.
命題《元の位数》
$a$ を群 $G$ の元とする.
$a^i = e$ を満たす正の整数 $i$ が存在するとき, その最小値を $a$ の位数 (order) と呼ぶ.
命題《元の位数の性質》
$a,$ $b$ を群 $G$ の元とする.
- (1)
- $a$ の位数が $n$ であるための必要十分条件は, 各整数 $m$ に対して
$a^m = e$ $\iff$ $m$ は $n$ で割り切れるが成り立つことである.
- (2)
- $a$ の位数が $n$ であり, $d$ が $n$ の約数であるならば, $a^{-1}$ の位数は $n$ であり, $a^d$ の位数は $\dfrac{n}{d}$ である.
- (3)
- $ab = ba$ であり, $a$ の位数 $m,$ $b$ の位数 $n$ が互いに素であるならば, $ab$ の位数は $mn$ である.
証明
- (1)
- $a$ の位数が $n$ であるとし, $m$ を整数とする.
$(\Longrightarrow )$: $a^m = e$ であるとし, $m$ を $n$ で割った商を $q,$ 余りを $r$ とおく. このとき, \[ e = a^m = a^{nq+r} = a^{nq}a^r = (a^n)^qa^r = e^qa^r = a^r\] となるから, 位数の最小性により $r = 0$ となる. よって, $m$ は $n$ で割り切れる.
$(\Longleftarrow )$: $m$ が $n$ で割り切れるとき, \[ a^m = a^{n\cdot\frac{m}{n}} = (a^n)^{\frac{m}{n}} = e^{\frac{m}{n}} = e\] となる. - 各整数 $m$ に対して $(\iff )$ が成り立つとき, $n$ は $a^i = e$ を満たす最小の正の整数であるから, $n$ は $a$ の位数である.
- $a$ の位数が $n$ であるとし, $m$ を整数とする.
- (2)
- 各整数 $m$ に対して
$(a^{-1})^m = e$ $\iff$ $a^{-m} = e$ $\iff$ $-m$ は $n$ で割り切れる $\iff$ $m$ は $n$ で割り切れる - 各整数 $m$ に対して
$(a^d)^m = e$ $\iff$ $a^{dm} = e$ $\iff$ $dm$ は $n$ で割り切れる $\iff$ $m$ は $\dfrac{n}{d}$ で割り切れる
- 各整数 $m$ に対して
- (3)
- $ab$ の位数を $l$ とおく.
- $mn$ が $l$ で割り切れることが, \[ (ab)^{mn} = a^{mn}b^{mn} = (a^m)^n(b^n)^m = e^ne^m = e\] から従う.
- $l$ が $mn$ で割り切れることを示す. \[\begin{aligned} (ab)^{ln} &= ((ab)^l)^n = e^n = e, \\ (ab)^{ln} &= a^{ln}b^{ln} = a^{ln}(b^{n})^l = a^{ln}e^l = a^{ln} \end{aligned}\] から $a^{ln} = e$ であるので, $ln$ は $m$ で割り切れ, よって $l$ は $m$ で割り切れる. 同様に, $l$ は $n$ で割り切れる. したがって, $l$ は $mn$ で割り切れる.
部分群
定義《部分群》
$H$ を群 $G$ の空でない部分集合とする.
$H$ が $G$ の二項演算に関して群をなすとき, $H$ を $G$ の部分群 (subgroup) と呼ぶ.
命題《部分群の判定法》
群 $G$ の部分集合 $H$ が $G$ の部分群であるためには, $e \in H$ と
\[ a,\ b \in H \Longrightarrow ab,\ a^{-1} \in H\]
の成り立つことが必要十分である.
証明
結合法則 (G1) は, $G$ の任意の元に対する条件であるから, $H$ の任意の元に対しても成り立つ.
よって, $G$ における二項演算から $H$ の二項演算が定まるという
\[ a,\ b \in H \Longrightarrow ab \in H\]
と, 単位元の存在 (G2), 逆元の存在 (G3) が成り立つときに限り, $H$ は $G$ の部分群になる.
例《部分群》
非負整数 $n$ に対して, $n$ の倍数全体の集合 $n\mathbb Z$ は $\mathbb Z$ の部分群をなす.
命題《部分群の共通部分》
群 $G$ の部分群からなる集合族 $\{ H_\lambda \} _{\lambda \in \mathit\Lambda }$ の共通部分 $\displaystyle\bigcap_{\lambda \in \mathit\Lambda}H_\lambda$ は $G$ の部分群である.
証明
$H = \displaystyle\bigcap_{\lambda \in \mathit\Lambda}H_\lambda$ とおく.
- 各部分群 $H_\lambda$ $(\lambda \in \mathit\Lambda )$ は $G$ の単位元を含むから, $H$ もそれを含む.
- $a,b \in H$ のとき, 各部分群 $H_\lambda$ $(\lambda \in \mathit\Lambda )$ は
を満たすから, $ab,$ $a^{-1} \in H$ である.$a,$ $b \in H_\lambda$ よって $ab,\ a^{-1} \in H_\lambda$
高校数学の問題
複素数平面
問題《複素数からなる乗法で閉じた集合》
$n$ 個の $0$ でない複素数からなる集合 $G$ で
を満たすものを決定せよ.
$z,$ $w \in G$ $\Longrightarrow$ $zw \in G$ $\cdots$(G0) |
(参考: $2001$ 京都府立医大)
解答例
こちらを参照.
関数と極限
問題《$n$ 文字の置換の性質》
$1$ 以上 $n$ 以下の整数全体 $A$ を定義域とする関数 $f(x)$ の値域が $A$ と一致するとする.
$k$ 個の $f(x)$ を合成して得られる関数を $f^k(x)$ で表すとき,
$f^k(1)\ (1 \leqq k \leqq n)$ が互いに異なるとする.
- (1)
- 関数として $f^n(x) = x$ が成り立つことを示せ.
- (2)
- $f(x)$ の逆関数を, $f^k(x)$ $(1 \leqq k \leqq n)$ の形に表せ.
解答例
こちらを参照.