有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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等式の証明・比例式

恒等式

定理《ラグランジュの恒等式》

 $2$ 以上の整数 $n$ に対して \[\left(\sum_{k = 1}^nx_k{}^2\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k{}^2\right) = \left(\sum_{k = 1}^nx_ky_k\right) ^2+\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}(x_ky_l-x_ly_k)^2\] が成り立つ. ここで, 右辺の第 $2$ 項の和は, $1 \leqq k < l \leqq n$ を満たす整数の組 $(k,l)$ すべてにわたる和を表し, $\displaystyle\sum_{k = 1}^{n-1}\sum_{l = k+1}^n(x_ky_l-x_ly_k)^2$ に等しい.

証明

 右辺を展開して変形すると, \[\begin{aligned} &\left(\sum_{k = 1}^nx_ky_k\right) ^2+\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}(x_ky_l-x_ly_k)^2 \\ &= \sum_{k = 1}^nx_k{}^2y_k{}^2+\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}2x_ky_kx_ly_l \\ &\qquad +\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}(x_k{}^2y_l{}^2+x_l{}^2y_k{}^2-2x_ky_lx_ly_k) \\ &= \sum_{k = 1}^nx_k{}^2y_k{}^2+2\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}x_kx_ly_ky_l \\ &\qquad +\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}(x_k{}^2y_l{}^2+x_l{}^2y_k{}^2)-2\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}x_kx_ly_ky_l \\ &= \sum_{k = 1}^nx_k{}^2y_k{}^2+\sum_{1 \leqq k < l \leqq n}(x_k{}^2y_l{}^2+x_l{}^2y_k{}^2) \\ &= \left(\sum_{k = 1}^nx_k{}^2\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k{}^2\right) \end{aligned}\] となる.

定理《ブラーマグプタの恒等式》

\[ (x^2+ny^2)(u^2+nv^2) = (xu\pm nyv)^2+n(xv\mp yu)^2\] (複号同順) が成り立つ.

証明

 右辺を展開して整理すると, \[\begin{aligned} &(xu\pm nyv)^2+n(xv\mp yu)^2 \\ &= (x^2u^2\pm 2nxyuv+n^2y^2v^2)+n(x^2v^2\mp 2xyuv+y^2u^2) \\ &= x^2u^2+nx^2v^2+n^2y^2v^2+ny^2u^2 \\ &= x^2(u^2+nv^2)+ny^2(u^2+nv^2)\\ &= (x^2+ny^2)(u^2+nv^2) \end{aligned}\] となる.

問題《ブラーマグプタ=フィボナッチ恒等式》

 次のことを示せ. ただし, $\sqrt 3$ が無理数であることは, 証明なしに使ってよい.
(1)
$(ac+bd)^2+(ad-bc)^2 = (a^2+b^2)(c^2+d^2)$ が成り立つ.
(2)
$xy$ 平面において, 各頂点の $x$ 座標, $y$ 座標が整数である正三角形は存在しない.
標準定理$2019/03/25$$2022/06/24$

解答例

(1)
左辺を展開して整理すると, \[\begin{aligned} &(ac+bd)^2+(ad-bc)^2 \\ &= (a^2c^2+2abcd+b^2d^2)+(a^2d^2-2abcd+b^2c^2) \\ &= a^2c^2+a^2d^2+b^2c^2+b^2d^2 \\ &= a^2(c^2+d^2)+b^2(c^2+d^2) \\ &= (a^2+b^2)(c^2+d^2) \quad \cdots [1] \end{aligned}\] となる.
(2)
各頂点の $x$ 座標, $y$ 座標が整数である正三角形の存在を仮定する. 必要に応じて平行移動すると, ある整数 $a,$ $b,$ $c,$ $d$ について $\mathrm O(0,0),$ $\mathrm P(a,b),$ $\mathrm Q(c,d)$ を頂点とする正三角形が得られる. $\mathrm{OP} = \mathrm{OQ}$ つまり $\mathrm{OP}^2 = \mathrm{OQ}^2$ から, \[ a^2+b^2 = c^2+d^2 \quad \cdots [2]\] が成り立つ. また, $\mathrm{OQ} = \mathrm{PQ}$ つまり $\mathrm{OQ}^2 = \mathrm{PQ}^2$ から, \[ c^2+d^2 = (c-a)^2+(d-b)^2\] が成り立つ. 右辺を展開し, $ac+bd$ について解くと, \[ ac+bd = \frac{1}{2}(a^2+b^2) \quad \cdots [3]\] が得られる. $[2],$ $[3]$ を $[1]$ に代入, 整理して分母を払うと, \[\begin{aligned} 3(a^2+b^2)^2 &= 4(ad-bc)^2 \\ \sqrt 3(a^2+b^2) &= 2|ad-bc| \\ \sqrt 3 &= \dfrac{2|ad-bc|}{a^2+b^2} \end{aligned}\] が得られる. この分母, 分子は整数であるから,“$\sqrt 3$ が有理数”という矛盾が生じる.
 ゆえに, 各頂点の $x$ 座標, $y$ 座標が整数である正三角形は存在しない.

参考

  • (1) の等式は, 「ブラーマグプタの恒等式」(Brahmagupta's identity) の特別な場合であり, 「ブラーマグプタ=フィボナッチ恒等式」(Brahmagupta–Fibonacci identity) として知られている. これは, 「ラグランジュの恒等式」(Lagrange's identity, こちらを参照) の特別な場合でもある.
  • \[ (x_1{}^2+\cdots +x_n{}^2)(y_1{}^2+\cdots +y_n{}^2) = z_1{}^2+\cdots +z_n{}^2\] ($z_1,$ $\cdots,$ $z_n$ は $x_1,$ $\cdots,$ $x_n,$ $y_1,$ $\cdots,$ $y_n$ の関数) の形の恒等式として,「オイラーの $4$ 平方恒等式」(Euler's four-square identity),「デジャンの $8$ 平方恒等式」(Degen's eight-square identity) が知られているが, $z_1,$ $\cdots,$ $z_n$ が $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の多項式としても $y_1,$ $\cdots,$ $y_n$ の多項式としても $1$ 次式になるような恒等式が存在するのは $n = 1,$ $2,$ $4,$ $8$ の場合のみであることがフルヴィッツによって証明されている.
  • $xy$ 平面上の $x$ 座標, $y$ 座標が整数である点を「格子点」(lattice point) と呼び, 各頂点が格子点であるような多角形を「格子多角形」(lattice polygon) と呼ぶ.
  • 「格子正多角形」は正方形に限ることが知られている.
  • (2) の別解については, こちらを参照されたい.

問題《ブラーマグプタの恒等式とペル方程式》

(1)
$(xu+dyv)^2-d(xv+yu)^2 = (x^2-dy^2)(u^2-dv^2)$ を示せ.
(2)
$u^2-2v^2 = 1$ の正の整数解を $1$ つ求めよ.
(3)
$x^2-2y^2 = -1$ は無限に多くの整数解をもつことを示せ.
(参考: $1998$ お茶の水女子大)
実戦定理$2018/06/21$$2022/05/13$

解答例

(1)
左辺を展開して整理すると, \[\begin{aligned} &(xu+dyv)^2-d(xv+yu)^2 \\ &= (x^2u^2+2dxyuv+d^2y^2v^2)-(dx^2v^2+2dxyuv+dy^2u^2) \\ &= x^2u^2-dx^2v^2-dy^2u^2+d^2y^2v^2 \\ &= (x^2-dy^2)(u^2-dv^2) \quad \cdots [1] \end{aligned}\] となる.
(2)
$(u,v) = (3,2)$ は \[ u^2-2v^2 = 1 \quad \cdots [2]\] を満たす.
(3)
$(x,y) = (1,1)$ は $x^2-2y^2 = -1$ を満たす. また, $[1]$ に $d = 2,$ $(u,v) = (3,2)$ を代入すると, $[2]$ から, \[ x^2-2y^2 = (3x+4y)^2-2(2x+3y)^2\] となる. そこで, 数列 $\{ x_n\},$ $\{ y_n\}$ を \[\begin{aligned} x_1 &= 1, & x_{n+1} &= 3x_n+4y_n, \\ y_1 &= 1, & y_{n+1} &= 2x_n+3y_n \end{aligned}\] で定めると, 一般項の組 $(x,y) = (x_n,y_n)$ は $x^2-2y^2 = -1$ の整数解になる. $x_{n+1} > x_n$ であるから, これらの解は互いに異なる. ゆえに, $x^2-2y^2 = -1$ は無限に多くの整数解をもつ.

参考

  • (1) の等式は「ブラーマグプタの恒等式」(Brahmagupta's identity) と呼ばれる.
  • 平方数でない正の整数 $d$ に対して,「ペル方程式」$x^2-dy^2 = 1$ は無限に多くの整数解をもつことが知られているが, $x^2-dy^2 = -1$ は無限に多くの整数解をもつこともあれば, 全く整数解をもたないことがある (こちらを参照).

問題《ピタゴラスの $3$ つ組と $4$ つ組に関する等式》

(A)
$(m^2-n^2)^2+4m^2n^2 = (m^2+n^2)^2$ 
(B)
$(k^2+l^2-m^2-n^2)^2+4(km-ln)^2+4(kn+lm)^2 = (k^2+l^2+m^2+n^2)^2$ 
が成り立つことを示せ. 
標準定理$2022/05/19$$2022/07/12$

解答例

(A)
左辺を展開して整理すると, \[\begin{aligned} (m^2-n^2)^2+4m^2n^2 &= (m^4-2m^2n^2+n^4)+4m^2n^2 \\ &= m^4+2m^2n^2+n^4 \\ &= (m^2+n^2)^2 \end{aligned}\] が得られる.
(B)
左辺を展開して整理すると, \[\begin{aligned} &(k^2+l^2-m^2-n^2)^2+4(km-ln)^2+4(kn+lm)^2 \\ &= (k^4+l^4+m^4+n^4 \\ &\qquad +2k^2l^2-2k^2m^2-2k^2n^2-2l^2m^2-2l^2n^2+2m^2n^2) \\ &\qquad +4(k^2m^2-2klmn+l^2n^2)+4(k^2n^2+2klmn+l^2m^2) \\ &= k^4+l^4+m^4+n^4 \\ &\qquad +2k^2l^2+2k^2m^2+2k^2n^2+2l^2m^2+2l^2n^2+2m^2n^2 \\ &= (k^2+l^2+m^2+n^2)^2 \end{aligned}\] が得られる.

参考

  • $a^2+b^2 = c^2$ の正の整数解を「ピタゴラスの $3$ つ組」(Pythagorean triple) と呼ぶ (こちらを参照). すべての「ピタゴラスの $3$ つ組」は, 必要に応じて並べ替えると, 正の整数 $m,$ $n$ ($m,$ $n$ は互いに素, 偶奇が異なる, $m > n$) を用いて \[ (m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)\] の整数倍の形に表される.
  • $a^2+b^2+c^2 = d^2$ の正の整数解を「ピタゴラスの $4$ つ組」(Pythagorean quadruple) と呼ぶ (こちらを参照). すべての「ピタゴラスの $4$ つ組」は, 必要に応じて並べ替えると, 非負整数 $k,$ $l,$ $m,$ $n$ を用いて \[ (k^2\!+\!l^2\!-\!m^2\!-\!n^2,2(km\!-\!ln),2(kn\!+\!lm),k^2\!+\!l^2\!+\!m^2\!+\!n^2)\] の整数倍の形に表される ($k,$ $l,$ $m,$ $n$ が満たすべき条件については省略).

問題《アイゼンシュタインの $3$ つ組に関する等式》

\[ (a,b,c) = (m^2-n^2,2mn+n^2,m^2+n^2+mn)\] のとき \[ a^2+b^2+ab = c^2\] が成り立つことを示せ.
標準定理$2022/07/01$$2022/07/13$

解答例

\[ (a,b,c) = (m^2-n^2,2mn+n^2,m^2+n^2+mn)\] を左辺に代入し, 展開して整理すると \[\begin{aligned} &a^2+b^2+ab \\ &= (m^2-n^2)^2+(2mn+n^2)^2+(m^2-n^2)(2mn+n^2) \\ &= (m^4-2m^2n^2+n^4)+(4m^2n^2+4mn^3+n^4) \\ &\qquad +(2m^3n+m^2n^2-2mn^3-n^4) \\ &= m^4+n^4+3m^2n^2+2mn^3+2m^3n \\ &= (m^2)^2+(n^2)^2+(mn)^2+2m^2n^2+2n^2\cdot mn+2mn\cdot m^2 \\ &= (m^2+n^2+mn)^2 \\ &= c^2 \end{aligned}\] が得られる.

参考

  • 各辺の長さが整数で, $1$ つの内角の大ささが $120^\circ$ である三角形の $3$ 辺の長さは, 余弦定理により $a^2+b^2+ab = c^2$ を満たす. この方程式の正の整数解を「アイゼンシュタインの $3$ つ組」と呼ぶ. すべての「アイゼンシュタインの $3$ つ組」は, 必要に応じて並べ替えると, 正の整数 $m,$ $n$ ($m,$ $n$ は互いに素, $3$ で割った余りが異なる, $m > n$) を用いて \[ (m^2-n^2,2mn+n^2,m^2+n^2+mn)\] の整数倍の形に表される.
  • 各辺の長さが整数で, $1$ つの内角の大ささが $60^\circ$ である三角形の $3$ 辺の長さは, 余弦定理により $a^2+b^2-ab = c^2$ を満たす. この方程式の正の整数解を「半角アイゼンシュタインの $3$ つ組」と呼ぶ. すべての「半角アイゼンシュタインの $3$ つ組」は, 必要に応じて並べ替えると, 正の整数 $m,$ $n$ ($m,$ $n$ は互いに素, $3$ で割った余りが異なる, $m > 2n$) を用いて \[ (m^2-n^2,2mn-n^2,m^2+n^2-mn)\] または \[\left(\frac{m^2-n^2}{3},\frac{2mn-n^2}{3},\frac{m^2+n^2-mn}{3}\right)\] (場合分けの条件は $m+n$ が $3$ と互いに素か否か) の整数倍の形に表される.

比例式

問題《合比・除比・合除比の理》

 $a,$ $b,$ $c,$ $d$ を $a \neq b \neq 0,$ $c \neq d \neq 0$ なる実数とする.
(1)
(i)
$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ $\Longrightarrow$ $\dfrac{a+b}{b} = \dfrac{c+d}{d}$
(ii)
$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ $\Longrightarrow$ $\dfrac{a-b}{b} = \dfrac{c-d}{d}$
(iii)
$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ $\Longrightarrow$ $\dfrac{a+b}{a-b} = \dfrac{c+d}{c-d}$
が成り立つことを示せ.
(2)
(1) の結果を使って, (i)~(iii) の逆が成り立つことを示せ.
基本定理$2020/02/13$$2022/05/13$

解答例

(1)
$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ を仮定する.
(i), (ii): 両辺に $\pm 1$ を加えると, \[\frac{a}{b}+1 = \frac{c}{d}+1, \quad \frac{a}{b}-1 = \frac{c}{d}-1\] から \[\frac{a+b}{b} = \frac{c+d}{d}, \quad \frac{a-b}{b} = \frac{c-d}{d}\] が得られる.
(iii): $2$ 式の辺々を割ると, \[\frac{a+b}{b}\cdot\frac{b}{a-b} = \frac{c+d}{d}\cdot\frac{d}{c-d}\] から \[\frac{a+b}{a-b} = \frac{c+d}{c-d}\] が得られる.
(2)
(i) の逆: $\dfrac{a+b}{b} = \dfrac{c+d}{d}$ に (ii) を適用すると,
$\dfrac{(a+b)-b}{b} = \dfrac{(c+d)-d}{d}$ つまり $\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$
が得られる.
(ii) の逆: $\dfrac{a-b}{b} = \dfrac{c-d}{d}$ に (i) を適用すると,
$\dfrac{(a-b)+b}{b} = \dfrac{(c-d)+d}{d}$ つまり $\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$
が得られる.
(iii) の逆: $\dfrac{a+b}{a-b} = \dfrac{c+d}{c-d}$ に (iii) を適用すると,
$\dfrac{(a+b)+(a-b)}{(a+b)-(a-b)} = \dfrac{(c+d)+(c-d)}{(c+d)-(c-d)},$
$\dfrac{2a}{2b} = \dfrac{2c}{2d}$ つまり $\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$
が得られる.

参考

 (i), (ii), (iii) はそれぞれ,「合比の理」,「除比の理」,「合除比の理」として知られている.

問題《加比の理》

(1)
実数 $a,$ $b,$ $c,$ $d,$ $x,$ $y$ が $bd \neq 0,$ $\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d},$ $bx+dy \neq 0$ を満たすとき, $\dfrac{ax+cy}{bx+dy}$ の値を求めよ.
(2)
$\triangle\mathrm{ABC}$ において, 内心を $\mathrm I$ とおき, $\angle\mathrm A$ の二等分線 $\mathrm{AI}$ と辺 $\mathrm{BC}$ の交点を $\mathrm A'$ とおく. \[\frac{\mathrm{AI}}{\mathrm{IA}'} = \frac{\mathrm{AB}+\mathrm{AC}}{\mathrm{BC}}\] が成り立つことを示せ.
基本定理$2015/03/26$$2022/09/07$

解答例

(1)
$k = \dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ とおくと, \[ a = bk, \quad c = dk\] となるから, \[\begin{aligned} \frac{ax+cy}{bx+dy} &= \frac{bkx+dky}{bx+dy} = \frac{k(bx+dy)}{bx+dy} \\ &= k = \frac{a}{b} = \frac{c}{d} \end{aligned}\] が得られる.
(2)
$\mathrm{BI},$ $\mathrm{CI}$ は $\angle\mathrm B,$ $\angle\mathrm C$ を二等分するから, \[\frac{\mathrm{BA}}{\mathrm{BA}'} = \frac{\mathrm{CA}}{\mathrm{CA}'} = \frac{\mathrm{AI}}{\mathrm{IA}'}\] が成り立つ. よって, (1) の結果により \[\frac{\mathrm{AI}}{\mathrm{IA}'} = \frac{\mathrm{BA}+\mathrm{CA}}{\mathrm{BA}'+\mathrm{CA}'} = \frac{\mathrm{AB}+\mathrm{AC}}{\mathrm{BC}}\] が成り立つ.

参考

  • (1) の結果を「加比の理」と呼ぶ.
  • 「加比の理」は, 平面上のベクトル $\vec v = (a,b)$ と $\vec w = (c,d)$ が互いに平行なとき, $x\vec v+y\vec w = (ax+cy,bx+dy)$ もそれに平行であることを意味する.

問題《シュケの不等式》

 正の数 $a,$ $b,$ $c,$ $d$ に対して, $\dfrac{a}{b} < \dfrac{c}{d}$ であるとき, \[\frac{a}{b} < \frac{a+c}{b+d} < \frac{c}{d}\] が成り立つことを示せ.
(参考: $2008$ お茶の水女子大)
基本定理$2018/08/25$$2022/05/13$

解答例

 $\dfrac{a}{b} < \dfrac{c}{d}$ のとき,
$ad < bc$ つまり $ad-bc < 0$
であるから, \[\begin{aligned} \frac{a}{b}-\frac{a+c}{b+d} &= \frac{a(b+d)-(a+c)b}{b(b+d)} = \frac{ad-bc}{b(b+d)} < 0, \\ \frac{a+c}{b+d}-\frac{c}{d} &= \frac{(a+c)d-c(b+d)}{(b+d)d} = \frac{ad-bc}{(b+d)d} < 0 \end{aligned}\] が成り立つ. よって, 求める不等式が成り立つ.

参考

  • 中世フランスの数学者シュケ (N. Chuquet) は, 本問の不等式を利用して $\sqrt 6$ の近似値を計算した.
  • より一般に, 正の数 $a,$ $b,$ $c,$ $d,$ $m,$ $n$ に対して \[\frac{a}{b} < \frac{c}{d} \Longrightarrow \frac{a}{b} < \frac{na+mc}{nb+md} < \frac{c}{d}\] が成り立つが, それは平面上の点 $\mathrm P(b,a)$ と原点を結ぶ直線, 点 $\mathrm Q(d,c)$ と原点を結ぶ直線の間に, 線分 $\mathrm{PQ}$ を $m:n$ に内分する点 $\mathrm R\left(\dfrac{nb+md}{m+n},\dfrac{na+mc}{m+n}\right)$ と原点を結ぶ直線があることからもわかる.
問題一覧 (式と証明)$3$ 次式の展開・因数分解 二項定理
多項式の除法・分数式 等式の証明・比例式
不等式の証明