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真の理解のためのシンプルな数学のノート

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不等式の証明

不等式の証明

 不等式 $A \geqq B$ を示すには, $A-B \geqq 0$ を示すことがしばしば有効である.

問題≪$2$~$4$ 変数の相加・相乗平均の不等式≫

(1)
$x,$ $y \geqq 0$ のとき, $x+y \geqq 2\sqrt{xy}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(2)
$x,$ $y,$ $z,$ $w \geqq 0$ のとき, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(3)
(2) において, $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすることにより, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(4)
$\triangle\mathrm{ABC}$ において $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $s = \dfrac{a+b+c}{2}$ とおくとき「ヘロンの公式」 \[\triangle\mathrm{ABC} = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\] (こちらを参照)が成り立つことを使って, 周の長さが一定である三角形のうち面積が最大であるものは正三角形であることを示せ.

解答例

(1)
\[ (x+y)-2\sqrt{\mathstrut xy} = (\sqrt{\mathstrut x}-\sqrt{\mathstrut y})^2 \geqq 0\] から, $x+y \geqq 2\sqrt{\mathstrut xy}$ が成り立つ. 等号成立は, $\sqrt{\mathstrut x} = \sqrt{\mathstrut y}$ のとき, つまり $x = y$ のときに限る.
(2)
(1) の不等式から \begin{align*} \frac{x+y+z+w}{4} &= \frac{\dfrac{x+y}{2}+\dfrac{z+w}{2}}{2} \geqq \frac{\sqrt{xy}+\sqrt{zw}}{2} \\ &\geqq \sqrt{\sqrt{xy}\sqrt{zw}} \\ &= \sqrt[4]{xyzw} \end{align*} であるので, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つ. 等号成立は,「$x = y$ かつ $z = w$」かつ $\sqrt{xy} = \sqrt{zw}$ のとき, つまり $x = y = z = w$ のときに限る.
(3)
(2) において $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすると, \begin{align*} &3w+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw} \iff w \geqq \sqrt[4]{xyzw} \\ &\iff w^4 \geqq xyzw \iff w^3 \geqq xyz \\ &\iff w \geqq \sqrt[3]{xyz} \iff x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz} \end{align*} となり, 求める不等式が得られる. また, 等号成立は $x = y = z = w$ つまり $x = y = z$ のときに限る.
(4)
周の長さが $L$ である三角形において, $3$ 辺の長さを $a,$ $b,$ $c,$ 面積を $S$ とおく. このとき,「ヘロンの公式」により, \[ S = \sqrt{\frac{L}{2}\left(\frac{L}{2}-a\right)\left(\frac{L}{2}-b\right)\left(\frac{L}{2}-c\right)}\] が成り立つ. よって, (3) の結果により, \begin{align*} \frac{16S^2}{L} &= (L-2a)(L-2b)(L-2c) \\ &\leqq \left\{\frac{(L-2a)+(L-2b)+(L-2c)}{3}\right\} ^3 \\ &= \left\{\frac{3L-2(a+b+c)}{3}\right\} ^3 = \left(\frac{3L-2L}{3}\right) ^3 \\ &= \frac{L^3}{27} \end{align*} であり, 等号成立は $L-2a = L-2b = L-2c$ つまり $a = b = c$ の場合に限る. したがって, $S$ は $a = b = c$ のとき最大となる. これで, 題意が示された.

別解(誘導に従わない場合)

(3)
$X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ とおくと \begin{align*} &x+y+z-3\sqrt[3]{xyz} \\ &= X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)(X^2\!+\!Y^2\!+\!Z^2\!-\!XY\!-\!YZ\!-\!ZX) \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)\cdot\frac{(X\!-\!Y)^2\!+\!(Y\!-\!Z)^2\!+\!(Z\!-\!X)^2}{2} \\ &\geqq 0 \end{align*} となるから, 求める不等式が得られる.

注意

 (2) の結果により \begin{align*} 16S^2 &= L(L-2a)(L-2b)(L-2c) \\ &\leqq \left\{\frac{L+(L-2a)+(L-2b)+(L-2c)}{4}\right\} ^4 \\ &= \left\{\frac{4L-2(a+b+c)}{4}\right\} ^4 = \left(\frac{4L-2L}{4}\right) ^4 \\ &= \frac{L^4}{16} \end{align*} となるが, 等号成立条件 $L = L-2a = L-2b = L-2c$ つまり $a = b = c = 0$ は成り立たない.

背景

  • $2$ 以上の整数 $n,$ 正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{\mathstrut x_1\cdots x_n} \geqq \frac{n}{x_1{}^{-1}+\cdots +x_n{}^{-1}}\] が成り立ち, 等号成立は $x_1 = \cdots = x_n$ の場合に限ることが知られている. 左辺を相加平均(arithmetic mean), 中辺を相乗平均(geometric mean), 右辺を調和平均(harmonic mean)と呼ぶ. 証明は, こちらを参照.
  • 周の長さが一定である図形のうち, 面積が最大の図形を求める問題を「等周問題」(isoperimetric problem)と呼ぶ. 本問では, 三角形の場合に限定してこの問題を考えたが, 一般に次のことが知られている: 周の長さが $L$ の $n$ 角形の面積 $S$ について, \[ S \leqq \dfrac{L^2}{4n\tan\dfrac{\pi}{n}}\] が成り立ち, 等号成立は正 $n$ 角形の場合に限る. また, 周の長さが一定である「閉曲線」(両端がつながった切れ目のない曲線)のうち, 面積が最大の図形は円である.
 $A \geqq 0,$ $B \geqq 0$ であるとき, 不等式 $A \geqq B$ を示すには, $A^2 \geqq B^2$ を示すことがしばしば有効である.

問題≪マンハッタン距離≫

(1)
すべての実数 $x,$ $y$ に対して, $|x|+|y| \geqq |x+y|$ が成り立つことを示せ.
(2)
$2$ 点 $\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y')$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P') = |x'-x|+|y'-y|\] と定める. このとき, $3$ 点 $\mathrm P,$ $\mathrm P',$ $\mathrm P''$ に対して \[ d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')\] が成り立つことを示せ.

解答例

(1)
\begin{align*} &(|x|+|y|)^2-|x+y|^2 \\ &= (|x|^2+2|x||y|+|y|^2)-(x+y)^2 \\ &= (x^2+2|xy|+y^2)-(x^2+2xy+y^2) \\ &= 2(|xy|-xy) \geqq 0 \end{align*} から $(|x|+|y|)^2 \geqq |x+y|^2$ が成り立つので, $|x|+|y| \geqq 0,$ $|x+y| \geqq 0$ に注意すると \[ |x|+|y| \geqq |x+y|\] が得られる.
(2)
$\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y'),$ $\mathrm P''(x'',y'')$ とおく. このとき, (1) で示した不等式により, \begin{align*} &d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \\ &= (|x'-x|+|y'-y|)+(|x''-x'|+|y''-y'|) \\ &= (|x''-x'|+|x'-x|)+(|y''-y'|+|y'-y|) \\ &\geqq |(x''-x')+(x'-x)|+|(y''-y')+(y'-y)| \\ &= |x''-x|+|y''-y| \\ &= d(\mathrm P,\mathrm P'') \end{align*} が成り立つ.

背景

  • 不等式 $|x|+|y| \geqq |x+y|$ を「三角不等式」(triangle inequality)と呼ぶ.
  • $2$ 点 $\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y')$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P') = |x'-x|+|y'-y|\] を $\mathrm P,$ $\mathrm P'$ の「マンハッタン距離」(Manhattan distance)と呼ぶ. この概念は, 碁盤目状に道路が整備された街で $2$ 点が「どれだけ離れているか」を考える際に有効である. 例えば, 点 $\mathrm A(3,4)$ は原点を中心とする半径 $5$ の円周上にあり, 点 $\mathrm B(1,5)$ はその円の外側にあるが, 原点と点 $\mathrm A$ の「マンハッタン距離」は $3+4 = 7,$ 原点と点 $\mathrm B$ の「マンハッタン距離」は $1+5 = 6$ であり, 「マンハッタン距離」では点 $\mathrm A$ よりも点 $\mathrm B$ の方が原点に「近い」. このように我々が距離と呼ぶ「ユークリッド距離」(Euclidean distance)と「マンハッタン距離」は, ずいぶん異なるものだと感じられるかもしれないが, 次の共通の性質をもつ.
    (D1)
    $d(\mathrm P,\mathrm P') \geqq 0$ であり, $d(\mathrm P,\mathrm P') = 0$ $\iff$ $\mathrm P = \mathrm P'$ が成り立つ.
    (D2)
    $d(\mathrm P,\mathrm P') = d(\mathrm P',\mathrm P)$ が成り立つ.
    (D3)
    $d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')$ が成り立つ.
    大学で学ぶ「位相空間論」(general topology)では, これらの性質をもつ対応はすべて「距離」(distance)と呼ばれ, その理論が体系的にまとめられている.

問題≪三角不等式と方程式の解の評価≫

 $a_0,$ $a_1,$ $\cdots,$ $a_{n-1}$ $(n \geqq 1)$ を実数とし, その絶対値の最大値を $M$ とおく. 方程式 \[ x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 = 0\] が実数解 $\alpha$ $(\neq 0)$ をもつとき, $|\alpha | \leqq M+1$ が成り立つことを, 前問で示した不等式 $|x+y| \leqq |x|+|y|$ を利用して, 背理法で示せ.

解答例

 $x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 = 0$ が実数解 $\alpha$ $(\neq 0)$ をもつとする. \[\alpha ^n+a_{n-1}\alpha ^{n-1}+\cdots +a_1\alpha +a_0 = 0\] から, \[\alpha +a_{n-1}+\cdots +\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}+\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}} = 0\] が成り立つ.
仮に $|\alpha | > M+1$ が成り立つとすると, \[\frac{1}{|\alpha |} < \frac{1}{M+1} \quad \cdots [\ast ]\] となるから, \begin{align*} &|\alpha | = \left| a_{n-1}+\cdots +\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}+\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}}\right| \\ &\leqq |a_{n-1}|+\cdots +\left|\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}\right| +\left|\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}}\right| \quad (\because [*]) \\ &= |a_{n-1}|+\cdots +\frac{|a_1|}{|\alpha |^{n-2}}+\frac{|a_0|}{|\alpha |^{n-1}} \\ &\leqq M\left( 1+\cdots +\frac{1}{|\alpha |^{n-2}}+\frac{1}{|\alpha |^{n-1}}\right)\ (\because |a_k| \leqq M) \\ &< M\!\left\{ 1\!+\!\cdots\!+\!\frac{1}{(M\!+\!1)^{n-2}}\!+\!\frac{1}{(M\!+\!1)^{n-1}}\right\}\ (\because [\ast ]) \\ &= M\!\cdot\!\frac{1\!-\!\left(\dfrac{1}{M\!+\!1}\right) ^n}{1\!-\!\dfrac{1}{M\!+\!1}} \!=\! M\!\cdot\!\frac{(M\!+\!1)^n\!\!-\!1}{(M\!+\!1)^n\!\!-\!(M\!+\!1)^{n-1}} \\ &= M\cdot\frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^{n-1}(M+1-1)} = \frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^{n-1}} \\ &< \frac{(M+1)^n}{(M+1)^{n-1}} = M+1 \end{align*} となって, 矛盾が生じる.
ゆえに, $|\alpha | \leqq M+1$ が成り立つ.