COMPASS

真の理解のためのシンプルな数学のノート

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平均値の定理

ラグランジュの平均値の定理

定理≪ラグランジュの平均値の定理≫

 実数値関数 $f(x)$ が閉区間 $a \leqq x \leqq b$ で連続であり, 開区間 $a < x < b$ で連続であるならば, \[\frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(c), \quad a < c < b\] を満たす実数 $c$ が存在する.

問題≪イェンゼンの不等式≫

 $n$ を $2$ 以上の整数とする.
(1)
$0 < x_1 < x < x_2$ のとき, 平均値の定理を使って \[\log x > \log x_1+\frac{\log x_2-\log x}{x_2-x}(x-x_1)\] が成り立つことを示せ.
(2)
$t_1,$ $\cdots,$ $t_n \geqq 0,$ $t_1+\cdots +t_n = 1$ とする. $x_1,$ $\cdots,$ $x_n > 0$ のとき, \[\log\left(\sum_{k = 1}^nt_kx_k\right) \geqq \sum_{k = 1}^nt_k\log x_k\] が成り立つことを示せ.
(3)
$x_1,$ $\cdots,$ $x_n > 0$ のとき, \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1\cdots x_n}\] が成り立つことを示せ.

解答例

(1)
$f(x) = \log x\ (x > 0)$ とおく. このとき, $f'(x) = \dfrac{1}{x}$ である. 定義域を区間 $(x_1,x),$ $(x,x_2)$ に制限して $f(x)$ に平均値の定理を適用すると, ある実数 $c,$ $d$ について \begin{align*} \frac{\log x-\log x_1}{x-x_1} &= \frac{1}{c}, \quad x_1 < c < x \\ \frac{\log x_2-\log x}{x_2-x} &= \frac{1}{d}, \quad x < d < x_2 \end{align*} となる. また, $c < d$ から $\dfrac{1}{c} > \dfrac{1}{d}$ が成り立つ. 以上から, \[\frac{\log x-\log x_1}{x-x_1} > \frac{\log x_2-\log x}{x_2-x}\] が成り立つので, \[\log x-\log x_1 > \frac{\log x_2-\log x}{x_2-x}(x-x_1)\] から求める不等式が得られる.
(2)
(i)
$n = 2$ のとき. $x_1 \leqq x_2$ としても一般性を失わない. $x_1 = x_2$ のとき, 不等式の両辺は等しい. $x_1 < x_2$ のとき, (1) において $x = t_1x_1+t_2x_2$ とすると, $t_1+t_2 = 1$ から \begin{align*} &\log (t_1x_1+t_2x_2) \\ &> \log x_1+\frac{\log x_2-\log x_1}{x_2-x_1}(t_1x_1+t_2x_2-x_1) \\ &= \log x_1+t_2(\log x_2-\log x_1) \\ &= (1-t_2)\log x_1+t_2\log x_2 \\ &= t_1\log x_1+t_2\log x_2 \end{align*} となり, 求める不等式が得られる.
(ii)
$n = m$ ($m$: $2$ 以上の整数)のとき, 不等式が成り立つとする. $n = m+1$ の場合に, $s = t_1+\cdots +t_m$ とおく. $s = 0$ のとき, $t_1 = \cdots = t_m = 0$ であるから, 不等式の両辺は等しい. $s > 0$ のとき, \[ u_k = \frac{t_k}{s} \quad (1 \leqq k \leqq m)\] とおくと, (i) の結果と帰納法の仮定から \begin{align*} &\log\left(\sum_{k = 1}^{m+1}t_kx_k\right) \\ &= \log\left(\sum_{k = 1}^mt_kx_k+t_{m+1}x_{m+1}\right) \\ &= \log\left( s\sum_{k = 1}^mu_kx_k+t_{m+1}x_{m+1}\right) \\ &\geqq s\log\left(\sum_{k = 1}^mu_kx_k\right) +t_{m+1}\log x_{m+1} \\ &\geqq s\left(\sum_{k = 1}^mu_k\log x_k\right) +t_{m+1}\log x_{m+1} \\ &= \sum_{k = 1}^mt_k\log x_k+t_{m+1}\log x_{m+1} \\ &= \sum_{k = 1}^{m+1}t_k\log x_k \end{align*} となる. よって, $n = m+1$ のとき不等式が成り立つ.
(i), (ii) から, $2$ 以上のすべての整数 $n$ に対して不等式が成り立つ.
(3)
(2) において $t_1 = \cdots = t_n = \dfrac{1}{n}$ とすると \[\log\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sum_{k = 1}^n\frac{1}{n}\log x_k = \log\sqrt[n]{x_1\cdots x_n}\] となるから, 両辺の指数関数による値をとると求める不等式が得られる.

背景

 (2) のタイプの不等式は「イェンゼンの不等式」(Jensen's inequality)と呼ばる. 本問では, 本質的に $f(x) = \log x$ のグラフが上に凸であることからこの不等式を証明したが, 逆にこの不等式を満たす関数のグラフは上に凸であることが知られている. 「凸関数」(convex function)は, 次のように特徴づけられる: 区間 $I$ で $2$ 回微分可能な実数値関数 $f(x)$ について, 次は同値である.
(i)
$f(x)$ のグラフがその上の $2$ 点を結ぶ線分よりも上方にある, つまり $(a,b) \subset I,$ $0 < t < 1$ ならば \[ f((1-t)a+tb) \geqq (1-t)f(a)+tf(b)\] が成り立つ.
(ii)
$2$ 以上のすべての整数 $n$ に対して, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n \in I,$ $t_1,$ $\cdots,$ $t_n \in (0,1),$ $\displaystyle\sum_{k = 1}^nt_k = 1$ ならば,「イェンゼンの不等式」 \[f\left(\sum_{k = 1}^nt_kx_k\right) \geqq \sum_{k = 1}^nt_kf(x_k)\] が成り立つ.
(iii)
$f(x)$ のグラフ上の点を結ぶ線分の傾きは単調減少である, つまり $(a,b) \subset I,$ $a < x < b$ ならば \[\frac{f(x)-f(a)}{x-a} \geqq \frac{f(b)-f(x)}{b-x}\] が成り立つ.
(iv)
$f(x)$ のグラフがその接線よりも下方にある, つまり $\alpha \in I$ ならば \[ f'(\alpha )(x-\alpha )+f(\alpha ) \geqq f(x)\] が成り立つ.
(v)
$f(x)$ のグラフの接線の傾きは単調減少である, つまり $f''(x) \leqq 0$ が成り立つ.
 これらの同値な条件の $1$ つ(よって全部)が成り立つとき, $f(x)$ は「上に凸」であるという. $n \geqq 3$ のとき,「イェンゼンの不等式」は, $f(x)$ のグラフ上の点を結ぶ $n$ 角形の内部の点が $f(x)$ のグラフよりも下方にあることを意味する.
 また, (i)~(v) において不等号の向きを変えた条件を満たす関数は「下に凸」(convex downward)であるという.