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真の理解のためのシンプルな数学のノート

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反復試行の確率

反復試行の確率

定義≪反復試行≫

 同じ条件のもとで同じ試行を何回か繰り返し行うとき, それらの試行を反復試行(repeated attempts)と呼ぶ.

定理≪反復試行の確率≫

 $1$ 回の試行で事象 $A$ の起こる確率が $p$ であるとする. この試行を $n$ 回繰り返し行うとき, 事象 $A$ がちょうど $r$ 回起こる確率は \[ {}_n\mathrm C_rp^r(1-p)^{n-r}\] である.

問題≪コイン投げの確率の最大値≫

 $r$ を正の整数とする. $n \geqq r$ なる整数 $n$ について, $1$ 枚のコインを $n$ 回投げてちょうど $r$ 回表が出る確率 $p_n$ が最大となるような $n$ の値を, $r$ を用いて表せ. ただし, コインを投げて表, 裏が出る確率はともに $\dfrac{1}{2}$ であるとする.

解答例

\begin{align*} \frac{p_{n+1}}{p_n} &= \frac{{}_{n+1}\mathrm C_r\left(\dfrac{1}{2}\right) ^r\left(\dfrac{1}{2}\right) ^{n+1-r}}{{}_n\mathrm C_r\left(\dfrac{1}{2}\right) ^r\left(\dfrac{1}{2}\right) ^{n-r}} \\ &= \frac{1}{2}\cdot\frac{(n+1)!}{r!(n+1-r)!}\div\frac{n!}{r!(n-r)!} \\ &= \frac{n+1}{2(n+1-r)} \end{align*} であるから, \begin{align*} p_{n+1} > p_n &\iff \frac{p_{n+1}}{p_n} > 1 \\ &\iff \frac{n+1}{2(n+1-r)} > 1 \\ &\iff n+1 > 2(n+1-r) \\ &\iff n < 2r-1, \\ p_{n+1} = p_n &\iff n = 2r-1, \\ p_{n+1} < p_n &\iff n > 2r-1 \end{align*} が成り立つ. よって, \[ p_1 < \cdots < p_{2r-1} = p_{2r} > p_{2r+1} > \cdots\] であるから, $p_n$ は $n = 2r-1,$ $2r$ のとき最大となる.

問題≪直線上のランダム・ウォーク≫

 数直線上の動点 $\mathrm P$ は, 原点 $\mathrm O$ を出発して, コインを投げて表が出る度に正の方向に $1$ だけ移動し, 裏が出る度に負の方向に $1$ だけ移動する. $2n$ 回コインを投げた時点で, $\mathrm P$ が $\mathrm O$ にある確率を $p_{2n}$ とおき, $\mathrm P$ が $\mathrm O$ に初めて戻る場合の数を $a_{2n},$ 確率を $f_{2n}$ とおく. また, $p_0 = 1$ と定める. $a_n = \dfrac{2{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n}$ であることがわかっている(こちらを参照).
(1)
$p_{2n}$ を求めよ.
(2)
$\dfrac{p_{2n}}{p_{2n-2}}$ を求めよ.
(3)
$f_{2n}$ を求めよ.
(4)
$\dfrac{f_{2n}}{p_{2n-2}}$ を求めよ.
(5)
$p_{2n-2}-p_{2n} = f_{2n}$ を示せ.
(6)
$\displaystyle\sum_{k = 1}^nf_{2k} = 1-\dfrac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}}$ を示せ.

解答例

(1)
$2n$ 回コインを投げたときに動点 $\mathrm P$ が原点 $\mathrm O$ にあるのは, $2n$ 回のうち $n$ 回表が出て $n$ 回裏が出る場合であるから, 求める確率は \[ p_n = {}_{2n}\mathrm C_n\left(\frac{1}{2}\right) ^k\left(\frac{1}{2}\right) ^{n-k} = \frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}} \quad \cdots [1]\] である.
(2)
$[1]$ から, \begin{align*} \frac{p_{2n}}{p_{2n-2}} &= \frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}}\cdot\frac{2^{2n-2}}{{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}} \\ &= \frac{1}{4}\cdot\frac{(2n)!}{n!n!}\div\frac{(2n-2)!}{(n-1)!(n-1)!} \\ &= \frac{1}{4}\cdot\frac{(2n)(2n-1)}{n\cdot n} \\ &= \frac{2n-1}{2n} \quad \cdots [2] \end{align*} である.
(3)
$2n$ 回コインを投げるとき裏表の出方は全部で $2^{2n}$ 通りあるから, 求める確率は \[ f_{2n} = \frac{a_n}{2^{2n}} = \frac{2{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n}\cdot\frac{1}{2^{2n}} = \frac{{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n2^{2n-1}} \quad \cdots [3]\] である.
(4)
$[1],$ $[3]$ から, \[\frac{f_{2n}}{p_{2n-2}} = \frac{{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{n2^{2n-1}}\div\frac{{}_{2n-2}\mathrm C_{n-1}}{2^{2n-2}} = \frac{1}{2n} \quad \cdots [4]\] である.
(5)
$[2],$ $[4]$ から, \begin{align*} p_{2n-2}-p_{2n} &= p_{2n-2}\left( 1-\frac{p_{2n}}{p_{2n-2}}\right) \\ &= p_{2n-2}\left( 1-\frac{2n-1}{2n}\right) \\ &= p_{2n-2}\cdot\frac{1}{2n} \\ &= f_{2n} \quad \cdots [5] \end{align*} が成り立つ.
(6)
$[1],$ $[5]$ から, \begin{align*} \sum_{k = 1}^nf_{2k} &= \sum_{k = 1}^n(p_{2k-2}-p_{2k}) \\ &= p_0-p_{2n} \\ &= 1-\frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}} \end{align*} が成り立つ.

背景

  • 本問の動点 $\mathrm P$ のように, 次に移動する位置が確率的に無作為に決まる運動を「ランダム・ウォーク」(random walk)と呼ぶ.
  • $2n$ 回コインを投げた時点で $\mathrm P$ が $\mathrm O$ に初めて戻る場合の数は, $n-1$ 番目の「カタラン数」(Catalan number)の $2$ 倍として求められる(こちらを参照).
  • \[\frac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}} < \frac{1}{\sqrt{\pi n}}\] の成り立つことが知られており(こちらを参照), 右辺は $0$ に収束するから, 無限級数 $\displaystyle\sum_{n = 1}^\infty f_{2n}$ は $1$ に収束する(数学 III). つまり, 動点 $\mathrm P$ がいつか原点 $\mathrm O$ に戻ってくる確率は $1$ である.
  • 平面や空間においても同様の「ランダム・ウォーク」の問題が考えられる. 動点 $\mathrm P$ が原点を出発して各座標軸の正の方向, 負の方向に等確率で $1$ だけ移動を続けるとき, 平面ではいつか原点に戻ってくる確率は $1$ であるが, 空間ではいつか原点に戻ってくる確率は約 $3$ 分の $1$ であることが知られている.