COMPASS

真の理解のためのシンプルな数学のノート

数式を枠からはみ出さずに表示するためには, 画面を横に傾けてください(532 ピクセル以上推奨).

対称式・交代式

理論

 このページでは, 簡単のために, 多項式の係数は実数の範囲で考える. 複素数の範囲に広げても, 有理数または整数の範囲に限定しても同様の議論が可能である. 一般の場合については,「補足」を参照されたい.

対称式

定義≪対称式≫

(1)
多項式 $f(x_1,\cdots,x_n)$ について, どの $2$ つの変数を入れ替えても同じ式になるとき, つまり $1 \leqq k < l \leqq n$ なるすべての整数の組 $(k,l)$ に対して \[ f(x_k = x_l,x_l = x_k) = f\] が成り立つとき, $f$ を $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の対称式(symmetric polynomial), 単に対称式と呼ぶ.
(2)
$x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ のうち $r$ 個の変数の積すべてにわたる和 \[ s_{n,r}(x_1,\cdots,x_n) = \sum_{1 \leqq k_1 < \cdots < k_r \leqq n}x_{k_1}\cdots x_{k_r}\] を $r$ 次の基本対称式(elementary symmetric polynomial)と呼ぶ.

注意

 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の対称式 $f$ とは, どのように変数を入れ替えても同じ式になるような多項式, つまり集合 $\{ 1,\cdots,n\}$ 上のすべての置換 $\sigma$ に対して \[ f(x_{\sigma (1)},\cdots,x_{\sigma (n)}) = f(x_1,\cdots,x_n)\] が成り立つような多項式に他ならない. ここで, 集合 $\{ 1,\cdots,n\}$ 上の置換とは, $\{ 1,\cdots,n\}$ を定義域かつ値域とするような関数のことである. すべての置換は $2$ つの文字を入れ替えるような置換のいくつかの合成として表されることが知られているので, この言い換えが可能である.

例≪対称式≫

(0)
すべての定数は対称式である.
(1)
すべての $1$ 変数多項式は $1$ 変数対称式である.
(2)
$s_{2,1} = x+y,$ $s_{2,2} = xy$ は $2$ 変数基本対称式である. $(x-y)^2$ は $2$ 変数対称式であるが, $xy^2,$ $x-y$ はそうでない.
(3)
$s_{3,1} = x+y+z,$ $s_{3,2} = xy+yz+zx,$ $s_{3,3} = xyz$ は $3$ 変数基本対称式である. $(x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2$ は $3$ 変数対称式であるが, $xy^2z^3,$ $x-y+z$ はそうでない.
(4)
$s_{4,2} = xy+xz+xw+yz+yw+zw$ は $4$ 変数対称式であるが, $xy+yz+zw+wx$ はそうでない.

補足

 $x_1-x_2+x_3$ は, $2$ 元体上の多項式とみなせば対称式になり, $x_2$ を定数とみなしても対称式になる. このような混乱の恐れを取り除くには, 係数をどの範囲で考えているのか, またどの変数について考えているのかを述べる必要がある.

命題≪対称式の多項式の対称性≫

 対称式の多項式, つまり多項式の各変数に対称式を代入することによって得られる多項式はすべて対称式である. 特に, $n$ 変数多項式 $f,$ $g$ が対称式であるならば, $f+g,$ $fg$ もまた対称式である.

証明

 後半のみを示せば良い. $f(x_1,\cdots,x_n),$ $g(x_1,\cdots,x_n)$ を対称式とすると, 対称式の定義により, $1 \leqq k < l \leqq n$ なる整数の各組 $(k,l)$ に対して \begin{align*} &(f+g)(x_k = x_l,x_l = x_k) \\ &= f(x_k = x_l,x_l = x_k)+g(x_k = x_l,x_l = x_k) \\ &= f+g, \\ &(fg)(x_k = x_l,x_l = x_k) \\ &= f(x_k = x_l,x_l = x_k)g(x_k = x_l,x_l = x_k) \\ &= fg \end{align*} が成り立つ.

対称式の基本定理

 上記の命題から, すべての基本対称式の多項式は対称式である. 逆に, すべての対称式は基本対称式の多項式として表すことができるというのが次の定理である.

定理≪対称式の基本定理(Fundamental theorem on symmetric polynomials)≫

 $n$ を正の整数とする. すべての $n$ 変数対称式 $f(x_1,\cdots,x_n)$ はある多項式 $\varphi (x_1,\cdots,x_n)$ を用いて \[ f(x_1,\cdots,x_n) = \varphi (s_{n,1},\cdots,s_{n,n})\] の形に表される.

証明 1(E. Waring, 1762)

 単項式 $f(x_1,\cdots,x_n) = cx_1^{e_1}\cdots x_n^{e_n} \neq 0$ に対して, \[\delta (f) = (e_1,\cdots,e_n) \in \mathbb N^n\] と定める. さらに, 多項式 $f(x_1,\cdots,x_n) \neq 0$ に対して, $f$ を単項式 $f_i \neq 0\ (i \in I)$ の和として表したときの $\delta (f_i)$ の辞書式順序に関する最小値を $\delta (f)$ と定める.
 対称式 $f(x_1,\cdots,x_n)$ が定数でないとき, その項のうち $\delta (f) = \delta (f_0)$ となる項 $f_0$ を $c_0x_1^{e_1}\cdots x_n^{e_n} \neq 0$ とすると, $e_1 \geqq \cdots \geqq e_n$ となり, 基本対称式の定数倍 \[ g_1 = c_0s_{n,1}{}^{e_1-e_2}\cdots s_{n,n-1}{}^{e_{n-1}-e_n}s_{n,n}{}^{e_n}\] について \[\delta (f) > \delta (f-g_1)\] が成り立つ. $\delta (f)$ より小さい $\mathbb N^n$ の値は有限個しかないから, この操作を続けていくと, いくつかの基本対称式の積の定数倍 $g_1,$ $\cdots,$ $g_r$ について \[\delta (f-g_1-\cdots -g_r) = (0,\cdots,0)\] となる. これは $f-g_1-\cdots -g_r$ が定数となることを示しているから, 対称式 $f$ は基本対称式の多項式として表すことができる.

補足

 この証明は, 係数全体が可換環である場合に適用可能である. 可換環とは, 加法と乗法が定義され, 交換法則, 結合法則, 加法に関する単位元と逆元の存在, 分配法則を満たす集合のことである. 例えば, 整数全体や, 有理数全体, 実数全体, 複素数全体は, 通常の加法と乗法ついて可換環を成す.

証明 2(A.-L. Cauchy, 1829)

 変数の個数 $n$ と $x_1$ の次数 $d$ に関する二重帰納法で示す.
(I)
$n = 1$ のとき. 変数 $x_1$ が $1$ 変数基本対称式であることから定理が従う.
(II)
与えられた正の整数 $n$ について, $n$ 未満の正の整数に対して定理が成り立つとする.
(i)
$f$ が $x_1$ に関して定数であるとき, 定理は明らかに成り立つ.
(ii)
与えられた非負整数 $d$ について, $x_1$ に関する次数が $d$ 未満である対称式に対して定理が成り立つとする. $f(x_1,\cdots,x_n)$ を $x_1$ に関する次数が $d$ である $n$ 変数対称式とする. \[\varphi _1(x_1,\cdots,x_{n-1}) = f(x_1,\cdots,x_{n-1},0)\] とおく. $\varphi _1$ は $x_1,$ $\cdots,$ $x_{n-1}$ に関する対称式であるから, 帰納法の仮定により $\varphi _1$ は $s_{n-1,1},$ $\cdots,$ $s_{n-1,n-1}$ の多項式として表される.
また, \[\varphi _2(x_1,\!\cdots\!,x_n) = f(x_1,\!\cdots\!,x_n)\!-\!\varphi _1(x_1,\!\cdots\!,x_{n-1})\] とおく. $\varphi _2(x_1,\cdots,x_{n-1},0) = 0$ から, 因数定理により $\varphi _2$ は $x_n$ で割り切れる. 対称性から $\varphi _2$ は $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ で割り切れるので, $\varphi _2$ は $x_1\cdots x_n = s_{n,n}$ で割り切れる. よって, \[\varphi _2 = s_{n,n}q\] を満たす対称式 $q(x_1,\cdots,x_n)$ が存在する. $\varphi _1$ の $x_1$ に関する次数は $d$ 以下であるから, $\varphi _2$ の $x_1$ に関する次数も $d$ 以下であり, したがって $q$ の $x_1$ に関する次数は $d$ 未満である. これらのことから, 帰納法の仮定により $q$ は対称式の多項式として表される.
$f$ は, 対称式の多項式として表される多項式 $\varphi _1,$ $\varphi _2$ の和であるから, 対称式の多項式として表される.
以上で, すべての場合に定理が示された.

補足

 この証明には, 係数全体 $A$ が整域であるという仮定が必要である. 整域とは, 乗法に関する単位元を持ち, 簡約法則 $ab = 0$ $\Longrightarrow$「$a = 0$ または $b = 0$」を満たす可換環のことである. 例えば, 整数全体や, 有理数全体, 実数全体, 複素数全体は, 通常の加法と乗法ついて整域を成す. 係数全体 $A$ が整域であれば, $n$ 変数多項式全体 $R = A[x_1,\cdots,x_n]$ も整域を成し, 変数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ は $R$ の素元になる. このことから, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の公倍元である $\varphi _2$ は $x_1\cdots x_n$ の倍元であることが言える. ここで, 整域 $R$ の素元 $p$ とは, $0$ でなく, 乗法について可逆でなく, $R$ において $p$ の倍元でない元の積もまた $p$ の倍元でないという性質を満たす $R$ の元である. 一般に, $x,$ $y$ が整域 $R$ の素元であれば, $R$ において $x$ と $y$ の公倍元は $xy$ の倍元である.

交代式

定義≪交代式≫

(1)
多項式 $f(x_1,\cdots,x_n)$ について, どの $2$ つの変数を入れ替えても符号を変えた式になるとき, つまり $1 \leqq k < l \leqq n$ なるすべての整数の組 $(k,l)$ に対して \[ f(x_k = x_l,x_l = x_k) = -f\] が成り立つとき, $f$ を $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の交代式(alternating polynomial), 単に交代式と呼ぶ.
(2)
$n(n-1)/2$ 次斉次多項式 \[{\mathit\Delta}_n(x_1,\cdots,x_n) = \prod_{1 \leqq k < l \leqq n}(x_k-x_l)\] を $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の差積(difference product)または最簡交代式(simplest alternating polynomial)と呼ぶ.

注意

 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ の対称式 $f$ とは, 集合 $\{ 1,\cdots,n\}$ 上のすべての奇置換 $\sigma$ に対して \[ f(x_{\sigma (1)},\cdots,x_{\sigma (n)}) = -f(x_1,\cdots,x_n)\] が成り立つような多項式に他ならない. ここで, 集合 $\{ 1,\cdots,n\}$ 上の奇置換 $\sigma$ とは, 順列 $1,$ $\cdots,$ $n$ の隣り合う数字を入れ替えて $\sigma (1),$ $\cdots,$ $\sigma (n)$ という順列を作る際に奇数回の操作を要するような $\{ 1,\cdots,n\}$ 上の置換のことである.

例≪交代式≫

(0)
実数係数の対称式は交代式でない.
(1)
奇数次の項のみから成るすべての $1$ 変数多項式は交代式である.
(2)
${\mathit\Delta}_2 = x_1-x_2$ は $2$ 変数の交代式であるが, $x_1-x_2{}^2,$ $x_1x_2{}^2$ は対称式でも交代式でもない.
(3)
${\mathit\Delta}_3 = (x_1-x_2)(x_1-x_3)(x_2-x_3),$ $-{\mathit\Delta}_3$ は $3$ 変数の交代式であるが, $x_1-x_2{}^2+x_3{}^3,$ $x_1x_2{}^2x_3{}^3$ は対称式でも交代式でもない.

定理≪交代式の基本定理≫

 $n$ を正の整数とする. すべての $n$ 変数交代式 $f(x_1,\cdots,x_n)$ は差積 ${\mathit \Delta}_n(x_1,\cdots,x_n)$ で割り切れ, $f = {\mathit \Delta}_nq$ とおくと, $q$ は対称式となる.

証明

 $k,$ $l$ を $1 \leqq k < l \leqq n$ なる整数とする. 交代式の定義により \[ f(x_k = x_l) = -f(x_k = x_l)\] つまり $2f(x_k = x_l) = 0$ が成り立つから, 両辺を $2$ で割ると $f(x_k = x_l) = 0$ となる. よって, $f$ を $x_k$ に関する $1$ 変数多項式とみなして因数定理を適用すると, $f$ は $x_k-x_l$ で割り切れることが分かる. $k$ と $l$ は任意であるから, $f$ は ${\mathit\Delta}_n$ で割り切れる.
 そこで, $f = {\mathit\Delta}_nq$ とおく. 上記のような整数 $k,$ $l$ について, \[ f(x_k = x_l,x_l = x_k) = -f\] から $-{\mathit\Delta}_n\cdot q(x_k = x_l,x_l = x_k) = -{\mathit\Delta}_nq$ が成り立つので, 両辺を $-{\mathit\Delta}_n$ で割ると $q(x_k = x_l,x_l = x_k) = q$ となる. これは $q$ が対称式であることを示している.

補足

 この証明には, 係数全体 $A$ が標数が $2$ でない整域であるという仮定が必要である. 整域 $A$ の標数とは, $A$ において $p = 0$ を満たす最小の正の整数 $p$ のことである. 整数全体を含むような整域の標数は $2$ でない. $2$ と $-{\mathit\Delta}_n$ で割るという操作でこの仮定を用いる.

問題

数学 I: 数と式

問題≪対称式の因数分解≫

 $(x\!+\!y\!+\!z)^3\!-\!(y\!+\!z\!-\!x)^3\!-\!(z\!+\!x\!-\!y)^3\!-\!(x\!+\!y\!-\!z)^3$ を因数分解せよ.

解答例

 $(x+y+z)^3-(y+z-x)^3$ は \[ (x+y+z)-(y+z-x) = 2x\] で割り切れ, $(z+x-y)^3+(x+y-z)^3$ は \[ (z+x-y)+(x+y-z) = 2x\] で割り切れる. よって, その差として表される与式は $2x$ で割り切れ, $x$ で割り切れる. 同様にして, 与式は $y,$ $z$ で割り切れることが分かる. したがって, 与式は $xyz$ で割り切れる $3$ 次多項式であるから, その商は定数 $c$ である. 与式に $(x,y,z) = (1,1,1)$ を代入すると \[ 3^3-1^3-1^3-1^3 = c\] となるから, $c = 24$ である. ゆえに, \[ (\text{与式}) = 24xyz\] が成り立つ.

問題≪交代式の因数分解≫

 $\dfrac{1}{(x\!\!-\!\!y)(x\!\!-\!\!z)(x\!\!+\!\!1)}\!\!+\!\!\dfrac{1}{(y\!\!-\!\!x)(y\!\!-\!\!z)(y\!\!+\!\!1)}\!\!+\!\!\dfrac{1}{(z\!\!-\!\!x)(z\!\!-\!\!y)(z\!\!+\!\!1)}$ を簡単にせよ.

解答例

 与式を通分すると, \[\frac{(y\!\!-\!\!z)(y\!\!+\!\!1)(z\!\!+\!\!1)\!\!+\!\!(z\!\!-\!\!x)(x\!\!+\!\!1)(z\!\!+\!\!1)\!\!+\!\!(x\!\!-\!\!y)(x\!\!+\!\!1)(y\!\!+\!\!1)}{(x-y)(y-z)(z-x)(x+1)(y+1)(z+1)}\] となる. 分子は, $x,$ $y,$ $z$ の交代式であるから, $3$ 次多項式 $(x-y)(x-z)(y-z)$ で割り切れる. 分子の次数も $3$ であるから, その商は定数 $c$ であり, \[ (\text{分子}) = c(x-y)(x-z)(y-z)\] が成り立つ. ここに $(x,y,z) = (3,2,1)$ を代入すると \[ 6-8+8 = 6c\] となるから, $c = 1$ である. ゆえに, \[ (\text{与式}) = \frac{1}{(x+1)(y+1)(z+1)}\] が成り立つ.
最終更新日: 2017 年 3 月 21 日